福島地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決
原告
原澤光男
右訴訟代理人弁護士
佐々木廣光
右訴訟復代理人弁護士
岩渕敬
被告
(喜多方市長) 飯野陽一郎
右訴訟代理人弁護士
今井吉之
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 本案前の争点(一)について
1 地方自治法二四二条及び二四二条の二は、住民が納税者として、地方公共団体がその執行機関等の違法な財務会計行為によって損害を被ることを防止し、地方公共団体がその執行機関等の違法な財務会計行為により被った損害を回復する手段を設け、これによって地方公共団体が適正な財務会計行為を行うことを保障することを目的として、住民監査請求及び住民訴訟の制度を定めていると解される。しかしながら、地方公共団体の執行機関、職員が行った財務会計行為をいつまでも争うことができるようにしておくことは、地方公共団体の関与する法的関係の安定性を損なうことになって好ましくないことから、同法二四二条二項本文は、住民監査請求または住民訴訟の対象となる財務会計行為のあった日又は終わった日から一年間の監査請求期間を定め、この期間を経過したときは、当該財務会計行為について住民監査請求をなしえないものとした上、同法二四二条の二第一項により、住民訴訟の提起には住民監査請求を経ることが必要であると定めて、住民訴訟も提起し得ないものとした。しかし、当該財務会計行為が地方公共団体の一般住民に隠れてきわめて秘密裡になされ、右財務会計行為から一年間を経過してはじめて明らかになったような場合にまで、右の監査請求期間を徒過したとして、右財務会計行為に対する住民監査請求ひいては住民訴訟の提起を不適法とすることは、地方公共団体の財務会計行為の適正の確保を目的とする住民監査制度及び住民訴訟制度の機能を著しく限定するもので相当でない。そこで、地方自治法二四二条二項ただし書は、当該財務会計行為のあった日又は終わった日から一年間を経過した後になされた住民監査請求であっても、一年間を経過したことに「正当な理由」がある場合には、例外的に適法なものと定めた。したがって、右のように、当該財務会計行為が秘密裡になされた場合に、住民監査請求が監査請求期間を徒過してなされたことに「正当な理由」があるか否かは、特段の事情のない限り、地方公共団体の住民が相当な注意力をもって調査したときに客観的にみて当該財務会計行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと認められるときから相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものと解される。
ところで、前提となる事実によれば、被告が喜多方市長として、昭和六一年五月二八日から昭和六三年六月二三日までの間に、本件各契約のうち、本件契約(一)ないし(一七)の各契約を締結したこと、原告が平成元年一二月四日に本件住民監査請求を行ったことがそれぞれ認められ、これらの事実によれば、原告が本件契約(一)ないし(一七)の各締結日から一年間を経過した後に本件住民監査請求を行ったことが明らかである。
したがって、本件訴えのうち、本件契約(一)ないし(一七)の締結により喜多方市に生じた損害の賠償を求める部分が適法であるか否かは、本件住民監査請求が右各契約の締結から一年間を経過した後になされたことに、地方自治法二四二条第二項ただし書の「正当な理由」があるかどうかによることとなる。
2 そこで、本件各契約の締結から、原告が本件住民監査請求を行うまでの経緯についてみるに、〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 昭和四五年当時、喜多方市内には、濁川、押切川等の未改修河川があったが、昭和四四年二月ころまでに、両河川の改修事業の一環として押切川と濁川の合流事業計画が立案されていたこと、同計画の内容は、押切川から濁川への捷水路(導水路)を、従来の押切川と濁川との合流地点より上流に設置するとともに、濁川の流域を拡幅して洪水対策とすること、押切川の捷水路分岐点から従来の濁川への合流地点までの河川区域を廃川敷地とし、総合体育施設、各種センター、公園等の公共施設の建設用地とする他、企業誘致を行う工業団地(この工業団地が押切川工業団地である。)を建設したり、住宅団地としての利用を図る、というものであったこと、右計画内容は広報きたかた昭和四五年九月二〇日号に掲載されたこと、同事業実施のため、昭和四六年五月、財団法人喜多方市開発公社(以下「公社」という。)が設立されたこと、昭和五五年一〇月に、濁川と押切川との合流工事完了の通水式が行われたこと、右押切川廃川敷地と既成の喜多方市街地との間に存した旧国鉄日中線以西の土地の開発が必要であつたことから、右廃川敷地と右旧国鉄日中線以西の土地を併せて土地区画整理を行うことを内容とする本件土地区画整理事業が立案計画されたこと、それによれば、公社が濁川拡幅用地及び捷水路用地を取得し、同取得にかかる土地と建設省用地となる押切川廃川敷地とを交換する予定であったこと、本件土地区画整理事業の事業費は、総事業費が金六九億三四〇〇万円、内基本事業費が金二四億六〇〇〇万円、その他の事業費が四四億七四〇〇万円であり、費用支弁の内訳は、国及び福島県からの補助がそれぞれ金一六億四〇〇〇万円、金一億四四八四万七〇〇〇円、喜多方市からの支出が金六億七五一五万三〇〇〇円、保留地処分金が三八億二〇〇〇万円等の予定であったこと、昭和五六年九月一六日、本件土地区画整理事業を前提とした都市計画が決定されたこと、昭和五七年九月一〇日、本件土地区画整理事業の設計概要が認可されたこと、同月二二日、本件土地区画整理事業計画が決定されたこと、同年一一月、公社が取得した市有地と押切川廃川敷地との交換協定が締結され、これにより前記合流事業が終結したこと、本件土地区画整理事業の計画概要は、広報きたかた昭和五八年七月一日号に掲載されたこと、右事業計画の中で、押切川工業団地は工業地域として位置づけられ、喜多方市外からの企業の誘致及び都市計画上の不適格建築物の移転という目的が設定されたこと、本件土地区画整理事業施行区域内に、保留地、同事業計画推進のため喜多方市が先行取得した市有地及び公社がその目的のために所有する公社有地が存在したこと、押切川工業団地内の土地処分の方針は、本件土地区画整理事業施行区域内に存在する都市計画上の不適格建築物を優先して移転させること、誘致企業に対して売却すること、工業の用に使用する者に対して売却すること、土地造成は売買契約締結後に行うことの四点であったこと、押切川工業団地は工業地域としての地域指定を受けていたが工業専用地域の地域指定は受けていなかったこと(以上、〔証拠略〕)
(二) 喜多方市は、昭和五八年二月ころまでに、押切川工業団地内の土地処分予定価格を一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円と定め、東京所在の企業に対する同工業団地の説明会のために、同工業団地内の土地の処分予定価格を掲載した乙第七号証のパンフレットを作成した他、昭和五九年七月ころにも、同じ目的をもって、それに類似したパンフレットを作成したこと(〔証拠略〕)、
(三) 昭和六〇年六月八日付の読売新聞は、押切川工業団地内の工業用地が一件も売却できていないが、喜多方市に売却の意欲がみられないこと、同市が、昭和五八年、本件区画整理事業施行区域内の地価を一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円とすることを打ち出したこと等の記事を掲載したこと(〔証拠略〕)、
(四) 本件土地区画整理事業施行区域内の工業用地の価格については、昭和六一年六月二八日発議により、面積三三〇平方メートルから一六五〇平方メートルまでの土地については取得費から一〇パーセント軽減した価格、面積一六五一平方メートルから四九九九平方メートルまでの土地については取得費から二〇パーセント軽減した価格とするとの政策価格の決定がなされたこと(〔証拠略〕)、
(五) 押切川工業団地内の工業用地は、昭和五七年ころの売り出しから前市長が退任した昭和六一年四月二九日までの間には、売却交渉が数件しか行われなかった他、その後成約をみたものも、佐藤石材の一件のみであったこと、これは、右当時景気が低迷していたこと、特に、工業団地内の処分予定価格が一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円と定めたが、それでも工業団地の地価として福島県内の他の工業団地と比較して高すぎたこと等が原因であったこと(〔証拠略〕)、
(六) 昭和六二年九月一九日から二〇日にかけて、本件土地区画整理事業施行区域内の工業用地の売却処分について、公開公募を行ったが、応募者がなかったこと、喜多方市が右公開公募に際して、チラシを頒布したが、このチラシには、右区域内の工業地域の物件として、処分単価を、一平方メートル当たり金一万二一〇〇円とする物件と一平方メートル当たり金一万四八〇〇円とする物件のあることが掲載されていたこと(〔証拠略〕)、
(七) 昭和六二年九月開催の市議会において、押切川工業団地内で普通の住宅が築造されている等の不公平、不平等が、喜多方市民の間で話題になっていたことが議論されたこと(〔証拠略〕)、
(八) 昭和六二年一〇月八日発行の新政会ニュースは、本件土地区画整理事業施行区域内の七割の土地が分譲されたこと、売却先として決定したか、売却先として決定予定の企業の数は、喜多方市内の企業が一二件、同市外の企業が一四件に上っていたことの他、分譲先の企業種別の分譲決定または分譲予定の分譲面積等を内容とする記事を掲載したこと(〔証拠略〕)、
(九) 原告は昭和六三年三月九日付けで、喜多方市議会に対し、「西部土地区画整理事業施行区域内の調査についての陳情書」と題する書面による陳情を行ったこと、同書面には、一般住宅用地、工業指定地域の土地利用について不公平な建築行為等があるとの意見がある旨の記載があったこと(〔証拠略〕)、
(一〇) 原告は、同年五月九日、建設委員会において、右陳情の趣旨について説明したこと、原告は、右説明の中で、喜多方市民が、新政会ニュースまたは社会党議員団ニュース等によって、押切川工業団地についての疑問点を知らされていること、建設委員会の調査で是正を図るべきこと、その調査結果を市民に公表すべきことを述べた上で、<1>喜多方市の保留地五万六〇〇〇平方メートルは昭和六二年に大半売られ、残地はわずかとなり、当初計画では工業用地として位置づけられ、市外企業の誘致を図り、地元人材の雇用の増大ひいては地元活性化を促進する計画であったのに、実際の取得者はほとんどが喜多方市内在住者であって、喜多方市が右計画を断念したと疑わざるを得ない状態であること、同市が政策を変更し当初計画を断念したならば、当初計画の変更を行うべきであること、<2>ある地元工場が一坪当たり金四万円で工業団地内の土地を取得する一方、従前所有していた土地を一坪当たり約金一五万円で売却したという例があり、右地元工場は、単純計算でも約金一億円になる、従前地の売却取得金と工場団地内の土地購入費用との差額を取得したことになること、このようなことは、市民感情として釈然としないこと、<3>土地区画整理審議会、公社理事会の議決が必要に思うが、いずれも議決を得ないまま、契約を強行してしまった経緯があるように思われること、<4>公有地の売却処分は公平の原則に立つこと、一坪当たり金四万円は政策価格であったこと、工業団地内の土地を一般企業に供することで、雇用拡大を期待していたこと、市民は一坪当たり金四万円であれば工業団地内の土地がほしかったという心情であること、右土地の処分は全面的に入札を行ってすべきであったのに、特定者に利便を図ったのではないかとの疑問があること、買戻請求、今後の成行によっては特別委員会の設置も要望すること、建設委員会として徹底的に調査し、納得のゆく調査結果を出すことを求めること、場合によっては、白紙撤回の必要もあること等を述べたこと(〔証拠略〕)、
(一一) 昭和六三年五月二七日開催の建設委員会において、佐藤正男に対しては、押切川工業団地内の土地を一平方メートル当たり金一万九〇〇〇円で売却したが、その他の土地は一平方メートル当たり金一万三三〇〇円から金一万四八〇〇円の単価で売却した理由、右売却価格がばらばらな理由、市有地を喜多方市有財産処分委員会を経ることなく売却した理由、市街地純化対策の基準が不明確ではないか等について質問がなされたこと、これに対して、佐藤仁勇喜多方市開発課長が、佐藤正男に対して売却したのが押切川工業団地内の土地のはじめての売却であったこと、地価の決定は原価を割らないことを基本としていたこと、その後の売却は政策価格によりなされたこと、価格の決定にはそのときの事情があり、売却価格にばらつきが生ずることはやむをえないことを答弁したこと、なお、佐藤正男は佐藤石材の代表取締役であること(以上、〔証拠略〕)、
(一二) 右建設委員会では、佐藤石材に対する売却価格とそれ以外の者に対する売却価格との間に不公平のあることが問題とされたこと、建設委員会において、右のように調査中、決算特別委員会でも、押切川工業団地内の土地売買に関する問題を取り上げることになったこと、建設委員会の審理においては、押切川工業団地の土地売却処分に関する売買契約書を全部調査したこと(〔証拠略〕)、
(一三) 喜多方市は同市広報きたかたの昭和六三年一二月一日号によって、本件土地区画整理事業施行区域内の保留地(工業地域)の公開公募を行ったこと、同広報には、右保留地(工業地域)の処分単価が金一万四八〇〇円であることが記載されていたこと(〔証拠略〕)、
(一四)原告の喜多方市議会に対する前記陳情は、昭和六三年一二月一五日、建設委員会において採択されたこと、喜多方市議会が原告に対し、右同月一六日、右陳情が採択された旨を通知したこと、右採択に際しては、不公平、不平等な売却があったとして是正すべきであるとの意見が付されていたこと(〔証拠略〕)、
(一五) 日本社会党議員団ニュース号外(昭和六三年一二月三〇日)に、「四億五〇〇〇万円の赤字は誰が支払うのか!」と題する記事が掲載されたこと、同記事には、本件土地区画整理事業施行区域内の土地は、企業誘致条例に該当しない者に対して売却する場合には、原価を割り込まない価格である一坪当たり金七万円以上で売却すべきであるのに、実際には一坪当たり金四万円で売却しているのは容認できないとか、公開抽選を経て売却されるべきであるのにこれが怠られているとかの批判がなされていたこと(〔証拠略〕)、
新政会ニュース(平成元年二月五日)に、右日本社会党議員団ニュース号外の内容を批判する内容の記事が掲載され、その他に、押切川工業団地の建設に当たって、当初は、喜多方市が地価を平均一平方メートル当たり金三万〇四〇〇円として建設省の認可を得たこと、しかし、喜多方市は昭和五八年ころ、右地価を一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円、一坪当たり約金四万円と決定したこと、この決定は、前市長が喜多方市長に在任中になされたものであったこと等の内容の記事が掲載されていたこと(〔証拠略〕)
日本社会党議員団ニュース号外(平成元年二月一五日)に、「坪四万円は企業誘致のための政策価格……市内の工場移転(純化対策)は原価で!」と題する記事が掲載されたこと、同記事は、前市長の押切川工業団地内の土地売却に関する方針は、企業誘致条例による企業誘致の際には一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円の政策価格により、企業誘致条例に該当しない喜多方市内の工場の移転(純化対策)については、土地取得費及び造成費から算定される原価を割らない価格を原則としていたこと、かかる原則となる価格の変更が喜多方市議会の議決を経ないまま行われたことは問題である等の内容であったこと(〔証拠略〕)、
(一六) 原告は、右各記事が掲載された当時、社会党員であり、右乙第一ないし第三号証の日本社会党議員団ニュース及び新政会ニュースを読んでいたこと(〔証拠略〕)、
(一七) 喜多方市議会は平成元年三月ころ、押切川工業団地工業用地売却に関する調査特別委員会(以下「特別委員会」という。)を設置したこと、これは、昭和六三年一二月に建設委員会及び決算特別委員会が右用地売却について是正すべきことを議決していたのに、何ら是正策、是正方針が発表されなかったことから、右市議会において特別委員会を設置すべきであるとの意見が出されたことに基づいていたこと、特別委員会としては、平成元年六月の市議会までに結論を出す予定であったこと(〔証拠略〕)、
(一八) 原告は平成元年三月一七日ころ、本件土地区画整理事業施行区域内の土地売却処分に関する諸問題を糾明し、問題点を正すことを目的として、「押切川工業団地を糾明する市民の会」と称する会を結成したこと、同会の会員数は約二〇〇名であったこと(〔証拠略〕)、
(一九) 原告は平成元年四月六日、喜多方市監査委員に対し、(1)押切川工業団地の処分を巡り、不公平があった原因、(2)前市長が決定した工業団地売却処分についての方針は、誘致企業に対しては、一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円、市内の工場移転(純化対策)に対しては原価を割らないというものであったのに、この方針を貫かなかったため、合計金四億五〇〇〇万円、市民一人当たり金四万五〇〇〇円もの負担となると予想される巨額の赤字が生じた等として、その処理方法等についての事務監査を請求し、同年六月八日受理されたこと、右事務監査請求の要旨が地方自治法七五条二項により公表されたこと(〔証拠略〕)、
(二〇) 平成元年三月二九日開催の特別委員会において、同委員会の正副両委員長が選出され、調査方針が検討されたこと(〔証拠略〕)、
同年四月六日開催の特別委員会において、佐藤石材、大栄林産、有限会社朝日屋食品(以下「朝日屋」という。)、高澤久男が代表者である高沢建設に対する土地売却の経緯について検討がなされたこと(〔証拠略〕)、
同月一四日開催の特別委員会において、佐藤石材、大栄林産、清水薬草店、冠木、協栄紙工、高澤久男(以下「高澤」という。)、高山建設、小荒井寛、朝日屋、会津スバル自動車株式会社(以下「会津スバル自動車」という。)に対する土地売却処分について議論されたこと(〔証拠略〕)、
同月二一日開催の特別委員会において、大栄林産、高山建設、高澤、朝日屋、有限会社庄司桐材工業(以下「庄司桐材」という。)、会津スバル自動車、協栄紙工、品川電気産業株式会社(以下「品川電気」という。)、清水薬草店に対する土地売却処分について議論されたこと、
押切川工業団地内の工業用地が公開公募により売却されたのかや右工業用地の買受人の土地使用計画、右工業用地の売却価格等について検討がなされたこと、原告は一般者とともに右委員会を傍聴していたこと(〔証拠略〕)、
同年五月一〇日開催の特別委員会において、品川電気、佐藤石材、高沢、朝日屋、大栄林産、協栄紙工、庄司桐材に対する土地売却処分について議論されたこと、喜多方市有財産処分委員会に諮ることなく売却処分が行われたことの適否、地方自治法二三七条の議会の議決の要否について検討が行われ、一般の傍聴者もあったこと(〔証拠略〕)、
同月一七日開催の特別委員会において、大栄林産、佐藤石材、朝日屋、高沢建築、庄司桐材、鹿島縫製に対する土地売却処分について議論されたこと、市有地の売却処分に際し喜多方市有財産処分委員会の議を経るべきでなかったかどうか及び市有地の売却処分について地方自治法二三七条の規定の適用があるかどうか等について検討がなされたこと、原告は、新聞記者及び一般者と右委員会を傍聴していたこと(〔証拠略〕)、
平成元年五月二六日開催の特別委員会において、高澤、大栄林産、会津スバル自動車、高山建設、吉の川、朝日屋に対する土地売却について議論されたこと、地方自治法によれば保留地を時価と著しく異なる価格で処分する場合には地方議会の議決を経なければならないかどうかについて検討されたこと、右工業団地内の市有地は運用財産であるからその売却処分に際して市議会の議決を経る必要はないとの解釈の当否、公開公募の実施、売却処分価格の基準等について検討されたこと、議員以外に新聞記者及び一般者も右委員会を傍聴していたこと(〔証拠略〕)、
平成元年六月五日開催の特別委員会において、塩原、清水、朝日屋、佐藤石材、大栄林産に対する土地売却について議論されたこと、公開募集が行われなかったこと、処分価格が買受人ごとに相違して処分されたにもかかわらず、喜多方市は早急に売却処分することを優先して売却したこと等について検討がなされたこと、原告は、新聞記者及び一般者と右委員会を傍聴したこと(〔証拠略〕)、
平成元年六月八日開催の特別委員会において、委員から、本件土地区画整理事業施行区域内、特に押切川工業団地内の土地について締結された各売買契約間の問題点として、約定代金額の格差、各売買契約における土地の用途の制限内容、各売買契約締結に際して公開公募が行われなかったこと、右土地の処分価格が喜多方市議会の議決を経ないで決定されたこと、喜多方市有財産処分委員会に諮ることなく市有地の処分がなされたこと等の諸点が指摘され、これらの問題点に対する特別委員会の調査結果のとりまとめが行われたこと(〔証拠略〕)、
(二一) 特別委員会は平成元年六月九日付けで、本件土地区画整理事業施行区域内の土地の売却処分に不公平があったと認め、喜多方市に対して是正策を講じることを求めるとともに、右売却処分の問題点は、売却処分価格差があること、工業団地の目的に適合しない住宅、店舗の建設があり、これが購入者間に不公平感を与えていること、問題点発生の原因は、公開公募をしなかったこと、売却に当たっての方針が確立されていなかったこと等であり、今後の対応としては、価格差、用途上の不合理点の是正を行うべきこと等を内容とする報告をしたこと(〔証拠略〕)、
(二二) 喜多方市監査委員は、原告がなした前記事務監査請求に対し、監査を行った結果、平成元年九月二九日、原告に対し、同日付けの監査結果報告書を交付し、原告がこれを受領したこと、右監査結果報告書は地方自治法七五条三項により公表されたこと、同監査結果によれば、
(1) 押切川工業団地内の土地処分の方針は、<1>本件土地区画整理事業施行区域内の不適格建築物を優先して移転させること、<2>誘致企業に売却すること、<3>工業の用に供する者に処分すること、<4>土地造成は売買契約締結後に行うことの四点であり、<1>と<2>の方針の相互の間には優先順位はなかったこと、
(2) 土地処分価格についての方針は本件土地区画整理事業の資金計画上の価格とするというものであったが、右価格は右計画上の希望価格に過ぎず成行により変更があることを前提としており、したがって、右方針はできるだけ高い価格で処分したいという程度の方針に過ぎなかったこと、前市長が、誘致企業に対しては一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円とし、それ以外の場合には原価を割り込まないようにする、という価格方針を立てたとの証拠がないこと、
(3) 押切川工業団地は急激な円高による経済状況の低迷のため工業用地の買手がないままであったが、他方、本件土地区画整理事業の推進のために都市計画道路坂井三丁目線の早期着工のために積極的な売却交渉が行われたこと、
(4) 本件契約(二)の約定代金額は、できるだけ高く処分したいという方針の下でしかも折り合いのつきそうなものとして提示された金額を基礎として決定されたこと、本件契約(二)の契約締結交渉中の交渉価格は、番号Bの土地の取得価格に金利を加えたものを基礎として算定されていたこと、
(5) 本件契約(二)の交渉から契約締結までの間には市長の交代があり、前市長から被告に対する事務引継書には、処分を急がないと原価が高くなり精算が困難となるとの意見が記載されていたこと、被告が喜多方市長になった後、価格を下げても本件土地区画整理事業の推進を図ることが総合的には有利であるとの判断の下に新たな価格体系が決定され、本件契約(三)、(四)の代金額が決定されたこと、本件契約(二)を除く本件各契約締結の目的が、不適格建築物を工業地域内に移転するといういわゆる純化対策が企業誘致に供するというものであり、工業地域という用途地域指定に基づくものであったこと、本件契約(二)の締結は喜多方市と買主との間の古い経緯に基づくものであったこと、
(6) 本件各契約が公開公募によらずに締結されたことに違法、不当とする論拠がないこと、本件各契約のうち市有地を目的物とする契約について喜多方市有財産処分委員会に付さなかった点を違法、不当とする論拠のないこと、本件各契約締結に必要な審議会、評価員会の開催の要件が履踐されていること、本件各契約による本件土地区画整理事業に照らした上での減収は本件土地区画整理事業全体の中で調整され、最終的には一般会計により負担されるべきであること、本件各契約には違法、不当な行為は見当たらず、本件土地区画整理事業上の資金計画と比較して相当の減収を生じたものの、処分価格決定はそれぞれの契約時の社会経済状況の下では適切な判断の下に決定されたこと、本件契約(二)ないし(一八)の各契約日、各単価、各代金額、各土地面積、各契約目的等が記載されていたこと(以上、〔証拠略〕)、
(二三) 原告が、平成元年四月又は五月ころ、「押切川工業団地を糾明する市民の会」を代表して、「押切川工業団地売買をめぐる監査請求問題赤字三億円、飯野市長の責任を問う」と題する文書を作成したこと(〔証拠略〕)、
(二四) 原告は平成元年一二月四日、喜多方市監査委員に対し、被告が喜多方市長として、特定の者の利益のために、本件土地区画整理事業施行区域内の土地を売却処分し、金二億〇七九二万円余りの減収を生じたとして、被告において同損害を負担するように求める内容の本件住民監査請求を行ったこと、同請求書には、昭和六三年一二月に開催された喜多方市議会によって右売却処分の大略が判明した旨が記載されていたこと、
(二五) 原告が本件住民監査請求に際して提出した資料は、甲第一二号証の各書類のうち、特別委員会資料と題する書面、建設委員会審査報告書、決算特別委員会審査報告書、喜多方市議会議事録の抜粋であったこと、右各書証のうち、特別委員会資料と題する書面は、原告が平成元年七月又は八月ころに富山から入手したものであること、それ以外の書面は、原告が喜多方市議会事務局に対して自ら直接または知人であった社会党所属の市議会議員を介して交付を要請し入手したこと、右の特別委員会資料には、市有地が佐藤石材外六名に対し、保留地が高山建設外一〇名に対して売却処分されたこと、右各土地の売却処分時の原価または予定価格の各合計、右売却処分価格合計、右市有地及び保留地に加えて、公社有地の売却によって、金二億円余りの減収となったことの記載があったこと(〔証拠略〕)、
以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠は存在しない。
3 右認定の、本件土地区画整理事業は押切川合流事業の一環として計画立案され、昭和五七年ころまでには、市民の間には周知の事業となったこと、本件土地区画整理事業の一環として、保留地及び市有地が売却処分されたことは、昭和六二年ころには、喜多方市民の間において知られていたこと、遅くとも昭和六三年三月ころまでには、喜多方市民の間において、右売却処分に不公平、不平等があるとの議論がなされるようになっていたこと、原告自身も右保留地及び市有地の大半が売却されたことを知っていたこと、原告はこれらの議論から右売却処分に対し疑問を抱き、喜多方市議会に対して調査を要請する陳情を行ったこと、建設委員会が同年一二月一五日に右陳情を採択したこと、原告自身本件住民監査請求書(〔証拠略〕)の中で、昭和六三年一二月ころまでに本件各契約の全貌が分かった旨認めていたこと、平成元年三月に設置された特別委員会は、住民一般も傍聴できる形式で、同年六月まで回数を重ね、押切川工業団地内の保留地、市有地の処分について調査を行ったこと、原告も実際に三回傍聴したこと、市議会議員以外の一般者も新聞記者も含めて傍聴していたこと、同委員会は右調査の中で、佐藤石材に対する売却処分後、政策的に売却価格が減額され且つ公開公募を行うことなく本件各契約の売却処分を行ったこと、喜多方市有財産処分委員会、喜多方市議会等の議決を経ることなく売却処分が行われたこと等の問題点を抽出した上、これらについて質疑、調査を行ったこと、同委員会の調査の中で、本件各契約のうちでは、協栄紙工、佐藤石材、大栄林産、高澤、高山建設、会津スバル自動車、朝日屋食品、冠木、品川電気、庄司桐材、小茂井完等に対する売却が議論の対象となったこと、原告は同年三月ころ、押切川工業団地を糾明する市民の会を設立し、本件土地区画整理事業施行区域内の工業団地内の工業用地売却に関する問題を糾明する活動を行ったこと、右会の会員数は二〇〇名に上ること、原告は同年四月六日、喜多方市監査委員に対し行った事務監査請求に対する監査結果報告書を同年九月二九日受理したこと、右監査結果報告書には、本件各契約のうち協栄紙工に対する本件契約(一)を除く各契約の契約締結日、代金額、面積等が記載されていたこと、右監査結果報告書は公表されたこと、原告が本件住民監査請求に際して提出した資料は、甲第一二号証の各書類のうち、特別委員会資料と題する書面、建設委員会審査報告書、決算特別委員会審査報告書、市議会議事録の抜粋であったこと、右各書証は、原告が喜多方市議会事務局に対して自ら直接または知人であった社会党所属の市議会議員を介して交付を要請し入手したものであったことに加え、甲第一二号証の中の特別委員会資料と題する書面には、市有地を佐藤石材外六件に対して、原価価格合計金一億八七三九万三二〇二円のところを処分価格合計金一億五四七四万一四一九円で、保留地を高山建設外一〇件に対し、保留地予定価格合計金四億九四一二万二二〇五円のところ、処分価格合計金二億二〇八七万八九四二円で売却処分されたこと、市有地、保留地及び公社有地についての、原価価格合計金、保留地予定価格合計金、公社用地の原価合計金と各処分価格合計金との各差額合計金が金二億〇七九二万四五九三円であること等の記載があること、原告が右書面を平成元年七月から八月ころに入手したこと等の各事実に照らせば、喜多方市が本件各契約を秘密裡に締結したとか、本件各契約の締結及び内容をことさら隠蔽しようとした等とは認められず、しかも、前示の市議会における審議経過、政党発行の新聞の記載内容、監査結果報告書の内容等に照らせば、本件各契約の締結及び内容について興味関心のある喜多方市の住民であれば、遅くとも平成元年九月二九日には、本件各契約のうち本件契約(一八)を除く各契約が締結されたこと、本件各契約に関してその当否について議論がなされていることを知り得たと認められるのに、本件住民監査請求は、右時点から約二ケ月以上も経過してなされたものと認めることができ、これらの事情を総合すれば、原告の本件住民監査請求(本件契約(一八)についてのものを除く)が本件契約(一)ないし(一七)の締結から一年間を経過してなされたことに正当な理由があるとまでは認められない。
原告は、監査結果報告書を参照して、本件各契約の違法性について検討するには、相当期間が必要であると主張するが、前示の市議会における質疑、調査の内容は、本件訴えにおいて、原告が主張している内容と主要な部分において重なり合うものであり、昭和六三年ころから押切川工業団地の用地売却処分に関して興味を抱いていた原告であれば監査結果報告書を受領する前から、本件各契約の問題点として議論されている点について相当程度の知識を有していたと認められ、そうだとすれば、監査結果報告書記載の内容について監査結果報告書受領後直ちに十分な検討をすることができたと認められるので、原告の右主張は失当である。
したがって、本件訴えのうち、原告が被告に対し、本件契約(一)ないし(一七)が締結されたことによる損害の賠償を請求している部分については、適法な住民監査請求手続を経ているとはいえず、右請求にかかる部分については不適法な訴えであって、却下を免れない。
二 本案前の争点(二)について
本件住民監査請求が請求を特定してなされたかについて判断する。
1 住民監査請求は監査の対象となる普通地方公共団体の執行機関等の財務会計行為を特定してなすべきであり、その特定の程度は、監査委員に監査の端緒を与える程度ではなく、当該行為を他の事項から区別して特定できるように個別的、具体的に摘示してすることを要し、また、当該行為等が複数である場合には、当該行為等の性質、目的に照らし、これらを一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示してすることを要するものと解される。ただ、右の特定がなされているか否かは、右監査請求書の記載だけを形式的に判断するのではなく、監査請求書及びこれに添付して提出された事実を証する書面等の資料の記載を総合して、実質的に判断すべきものと解される。そして、監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載、監査請求人が提出したその他の資料等を総合しても、監査請求の対象が右の程度に具体的に摘示されていないと認められるときは、当該監査請求は請求の特定を欠くものとして不適法であり、監査委員は右請求について監査をする義務を負わないものと解される。
2 前一認定の、原告は平成元年一二月四日、喜多方市監査委員に対し、被告が同市長として、特定の者の利益のために、本件土地区画整理事業施行区域内の土地を売却処分したため、喜多方市に金二億〇七九二万円余りの減収を生じたとして、被告において右減収を負担するように求める内容の本件住民監査請求を行ったこと、同請求書には、昭和六三年一二月に開催された喜多方市議会によって右売却処分の大略が判明した旨が記載されていたこと、原告が本件住民監査請求に際して提出した資料は、甲第一二号証の各書類のうち、特別委員会資料と題する書面、建設委員会審査報告書、決算特別委員会審査報告書、市議会議事録の抜粋であったこと、右各書証は、原告が喜多方市議会事務局に対して自ら直接または知人であった社会党所属の市議会議員を介して交付を要請し入手したものであったことに加え、甲第一二号証の中の特別委員会資料と題する書面には、市有地を佐藤石材外六件に対して、原価価格合計金一億八七三九万三二〇二円のところを処分価格合計金一億五四七四万一四一九円で、保留地を高山建設外一〇件に対し、保留地予定価格合計金四億九四一二万二二〇五円のところ、処分価格合計金二億二〇八七万八九四二円で売却処分されたこと、市有地、保留地及び公社有地についての、原価価格合計金、保留地予定価格合計金、公社用地の原価合計金と各処分価格合計金との各差額合計金が金二億〇七九二万四五九三円であること等の記載があることが認められる。右事実によれば、本件住民監査請求の対象とされている行為は、被告が喜多方市長としてなした、本件土地区画整理事業施行区域内の保留地一一件及び市有地七件についての売買契約であることが理解されるが、右のような種類の契約の締結ないし財産の処分の違法又は不当性は、事柄の性質上個々の契約ないし処分ごとに判断するほかないと考えられるから、右契約の締結等についての監査請求においては、各契約の締結等を他の契約の締結等から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するものというべきである。確かに、右認定のように本件住民監査請求においては、監査の対象となる各契約の締結は個々に契約の相手方、契約締結日、売買面積を特定する形式でなされてはいない。しかし、本件住民監査請求において、監査の対象となる各契約の締結等が市有地及び保留地のそれぞれにつき七件と一一件であり、合計で一八件あること、それらの各処分価額合計と原価または予定価格合計が記載されていること、しかも原告主張の損害の算定経過を明らかにするために公社有地の原価及び処分価格も記載されていることが認められ、原告は、被告が喜多方市長としてなした市有地の売買契約七件及び保留地の売買契約一一件を監査の対象としていることが理解できる内容であるということができる。このような監査対象の特定がなされれば、監査の端緒が与えられるというだけでなく、特定の一八件の各契約の締結等を他の契約の締結等から区別して個別的に特定しているものと認められる。以上によれば、本件住民監査請求は本件訴えにおいて原告が問題としている一八件の契約を監査の対象とするものと認められ、本件訴えのうち本件契約(一八)の締結による損害の賠償を請求した部分については監査の対象を特定した適法な住民監査請求の前置があるということができる。
三 本案前の争点(三)
1 本件契約(一八)は保留地についての売買契約であるので、同契約の違法性についての判断の前提として、保留地についての売買契約が地方自治法二四二条一項のいわゆる財務会計行為に該当するかどうかが問題となるので、この点判断する、
2 土地区画整理法一〇四条一一項によれば、地方公共団体が土地区画整理事業の施行者である場合には、保留地は同法一〇三条四項の換地処分の公告があった日の翌日に当該地方公共団体の所有に属すると定めており、したがって、保留地の売買契約は、当該地方公共団体の所有地を売却するものということができるので、地方自治法二四二条一項の「契約の締結」ないし「財産の処分」に該当すると解される。
確かに、土地区画整理事業の一環としてなされる保留地の売却処分は、地方公共団体が土地区画整理法の規定に基づき行うもので、地方公共団体の自治財政権に基づく財産の管理権能によるものではない。しかし、土地区画整理法一一八条一項によれば、地方公共団体が施行する土地区画整理事業に要する費用は当該地方公共団体が負担することとされており、同法九六条により、本件のごとく事業費に充てるために保留地を設ける場合であっても、保留地処分金、国庫負担金、公共施設管理者の負担金等を控除した事業費残額について当該地方公共団体が負担することになる上、前記のとおり、保留地は当該地方公共団体の所有に属するものであるから、保留地の売却処分は、地方公共団体の財産ないし財政に直接影響を及ぼすものと認められる。そして、地方自治法二四二条の二第一項が住民に訴訟によって財務会計行為の違法を争うことを認めているのは、前記のとおり、地方公共団体の財務会計の適正を図り、ひいては住民全体の利益を確保するためであると解される。そうであるとすれば、前記のとおり、保留地の売却処分は、地方公共団体の自治財政権に基づくものでないとしても、地方公共団体の財産、財政に直接影響を及ぼすものであることから、住民訴訟の対象となる財務会計行為に該当すると解するのが相当である。また、土地区画整理法一〇八条一項は、保留地の処分については地方公共団体の財産の処分に関する法令は適用されないと定めているが、これは、右事業の施行者である地方公共団体において、適宜適切に必要な土地区画整理事業費を取得できるようにする趣旨に出たものにすぎないと解され、住民訴訟について定めた地方自治法二四二条の二第一項や、地方自治体の執行機関の一般的な忠実義務を定めた同法一三八条の二の規定の適用まで排除する趣旨ではないと解される。
したがって、地方公共団体の住民は、保留地についての売却処分の適法性を住民訴訟によって争うことができると解され、本件訴えのうち、本件契約(一八)の締結により喜多方市に生じた損害の賠償を求める部分は適法である。
四 本案の争点(二)ないし(六)について
1 土地区画整理法一〇八条一項は、本件のように、土地区画整理事業の施行者が市である場合には、市は、保留地を、それを定めた目的に適合し、かつ同法五二条一項で定めるべきこととされている施行規程に定める方法に従って処分しなければならないと規定し、他方で、この場合に市は市の財産の処分に関する法令の規定を適用されないと規定している。
これは、施行者である市が適宜適切に必要な土地区画整理事業費を取得することを可能とするために、市の財産の処分に当たっての、機会均等、公正、価格の有利性等の要請を後退させつつ、これによる弊害の発生を、施行規程、保留地設定の目的に従った処分を行わせることで抑止しようとした趣旨であると解される。
したがって、番号Rの保留地の売却処分については、市の財産の処分に関する法令である、地方自治法二三七条二項、喜多方市有財産処分委員会規則二条、財産の交換、譲与、無償貸付等に関する条例三条の各規定はいずれも適用されないと解される。他方、地方公共団体の執行機関の一般的な職務執行についての忠実義務を定めた地方自治法一三八条の二の規定は、地方公共団体の財産処分の適正を確保するために定められた地方公共団体の財産の処分に関する法令に当たらないので、土地区画整理法一〇八条一項にかかわらず、右の保留地処分に適用されると解される。なお、原告は、地方自治法二三七条二項、喜多方市有財産処分委員会規則二条、財産の交換、譲与、無償貸付等に関する条例三条の各規定は、保留地をその原価を割り込むような価格で売却処分する場合には、土地区画整理法一〇八条一項の規定にかかわらず、それらの適用があると主張する。しかし、同法一一八条一項は、地方公共団体が土地区画整理事業の施行者である場合には、市が同事業の費用を負担すべきことを定めており、したがって、保留地を定めてその処分金を事業費に充てる場合でも、保留地処分金によって充足できない事業費を市が負担することになる。そうだとすれば、同法一〇八条一項は、右の事情を当然の前提とした上で、前記のように、施行規程等に従った処分と市の財産処分に関する法令の不適用を規定していると解される。それゆえ、保留地の原価を割り込む価額で保留地を処分する場合を特別に扱うことが法意であると解することはできず、原告の右主張は失当である。
ところで、土地区画整理法一〇八条一項は、土地区画整理事業の施行者が、保留地を処分する際には、施行規程及び保留地を定めた目的に従ってすべきことを規定している。施行規程とは、同法五二条一項が、本件のように市が施行者として土地区画整理事業を行う場合に定めるべきことを規定していることに基づいて定められるものであって、その規定内容は同法五三条に定められている。本件土地区画整理事業の施行規程は七条一項により、保留地の処分を同項各号に列挙の場合を除いて、競争入札又は公開抽選の方法により行うとするとともに、市長が公開抽選を行う場合には、その旨及び必要な事項を公告するものと定めており、施行規程八条一項は、保留地は、市長が、その位置、地積、土質、水利、利用状況、環境及び近傍類地の取引価格等を総合的に考慮し、土地区画整理法六五条一項の規定により選任された評価員の意見を聞いて定めた予定価格を下らない価格をもって処分するものと定め、更に、同条二項は、市長が右の予定価格を変更する場合には、評価員の意見を聞いて変更することができると定めている。また、施行規程三五条に基づき定められた、喜多方都市計画事業西部土地区画整理事業の保留地処分に関する規則一六条は、公開抽選の参加資格を、同規則一七条は抽選の公告の内容を、同規則一八条は、抽選参加の申込みをする者は一定の書類を提出すべきことを、同規則一九条は、抽選の方法は同規則一七条で公告した日時及び場所で行うことを、同規則二一条は市長が抽選者となることをそれぞれ規定している。そして、同規則二四条は、市長が抽選により当選者を決定したときは、その旨を当選者に通知すべきことを、同規則二五条一項は、当選者として通知を受けた者は通知を受けた日から一〇日以内に保留地売買契約書により契約の締結をしなければならないことを、同規則二六条一項は、右の契約の締結の際に、当選者が一定の保証金を納付しなければならないこと、同規則二九条一項は、市と契約を締結した者が契約締結の日から六〇日以内に契約代金の全額を納付しなければならないことを、それぞれ定めている。
また、土地区画整理法六五条三項は、保留地を定めた場合には、同法六五条一項の規定により選任した評価員の意見を聞いて、土地の価額を評価しなければならない旨を定めており、これを受けて、施行規程二一条は、従前の宅地及び換地の価額を、市長が地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮し、評価員の意見を聞いて定めると規定している。
2 そこで、喜多方市が開運堂との間において、本件契約(一八)を締結した経緯についてみるに、〔証拠略〕によれば、次のとおりであることが認められる。
(一) 喜多方市は、昭和五八年二月ころまでに、本件土地区画整理事業施行区域内の土地の処分予定価格を一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円とする旨を喜多方市の内外の企業に対して公表したこと(〔証拠略〕)、
(二) 喜多方市が昭和五八年八月五日、第一回の評価員会を開催したこと、同評価員会が本件土地区画整理事業施行区域内の土地評価の実施方法についての基準を決定したこと(〔証拠略〕)、
(三) 被告は前市長から昭和六一年五月二日事務引継を行ったこと、事務引継書には、西部土地区画整理事業債についての記載があり、同事業債の償還方法として、換地先を工場用地に振り向け、原価により処分した処分金をもって返済するとの記載がある一方、早急に処分しないと原価が上がり精算が困難となるとの記載があったこと、前市長の在職中は、昭和五七年ころから売却を開始していたにもかかわらず、押切川工業団地内の工業用地についての売買契約は、番号Bの土地についての契約しか締結されなかったこと、この売却不振の原因は工業用地の地価が他の工業団地の地価に比して高かったこと及び当時の景気が悪かったこと等にあったこと(〔証拠略〕)、
(四) 喜多方市は、昭和六三年三月二八日、第一一回評価員会を開催し、評価員会に対して、本件土地区画整理事業施行区域内の一〇六―二街区番号四―一ないし三外の保留地について、保留地処分価格の最低価格を、単価一平方メートル当たり金一万四八〇〇円とする原案の当否を諮ったこと、右評価員会は右原案に対して同意する旨議決したこと、右評価は企業の誘致、誘導を図るため、処分価格を面積によって段階を設け決定したものであること、その段階とは、<1>面積が一六五一平方メートル以上四九九九平方メートル以下の場合は市有地原価価格である一平方メートル当たり金一万六四七一円から二〇パーセント減額した一平方メートル当たり金一万三三〇〇円とすること、<2>面積が三三〇平方メートル以上一六五〇平方メートル以下の場合は市有地原価価格である一平方メートル当たり金一万六四七一円から一〇パーセント減額した一平方メートル当たり金一万四八〇〇円というものであり、右の決定は昭和六一年六月二八日付けで発議された基準であったこと、右の一〇六―二街区番号四―一ないし三も、別紙一の番号Rの保留地も地積が右<2>の場合に該当すること(〔証拠略〕)、
(五) 昭和六三年ころ、押切川工業団地内の土地買受の申込みが途絶えたこと、他方、本件土地区画整理事業を促進するため、保留地を売却処分して保留地処分金を取得し、右事業費に充当する必要があったため、右保留地の売却の公開公募に踏み切ったこと、喜多方市は、広報きたかた昭和六三年一二月一日号において、本件土地区画整理事業施行区域内の保留地のうち、一〇六―二街区四号の土地(地目宅地、地積一六三六・四五平方メートル)を単価一平方メートル当たり金一万四八〇〇円、価格金二四二一万九四六〇円の契約内容で公売し、応募期間を同月五日から同月一五日まで、応募受付時間を右期間の午前八時三〇分から午後五時まで、応募先を喜多方市役所開発課、西部土地区画整理現場事務所、抽選方法を同月二〇日公開抽選により当選者を決定することとし、期日まで応募がない場合は、その後申込順により売却すること、条件としては、工業用地として使用すること、登記は換地処分時(平成八年三月予定)に行われることを公告したこと(〔証拠略〕)、
(六) 開運堂が右同月一五日、喜多方市に対し、使用目的を倉庫及び工場として、右公開抽選に参加する旨申し込み、喜多方市は開運堂に対し、同月一六日、同月二〇日午後一時三〇分、同市役所において、公開抽選を行うと通知したこと、しかし、開運堂の他に抽選参加申込者はなかったので、無抽選で、開運堂に対して、前記の保留地を売却することが決定されたこと、そこで、喜多方市は、同月二七日、前記の保留地一〇六―二街区保留地番号四号の土地を、右公告どおりの契約内容で売却することが決定し、もし開運堂において平成元年一月一四日までの間に右契約を締結しないときは、右保留地売却決定を取り消すと通知したこと、開運堂は同月一三日喜多方市との間において、右保留地について、本件契約(一八)を締結したこと、本件契約(一八)の契約内容は、一〇六―二街区番号四号の地積一六三六・四五平方メートルの保留地を、単価一平方メートル当たり金一万四八〇〇円、代金額金二四二一万九四六〇円、代金支払期日同年三月一四日の約定で売買するというものであったこと、右契約内容のうち、土地の表示、地積、単価及び代金額は前記公告に記載されたとおりの内容であったこと(〔証拠略〕)、
右のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠は存在しない。
(七) なお、原告は、押切川工業団地内の保留地及び市有地は喜多方市外からの誘致企業に対して売却する場合には、一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円の価格で行うが、それ以外の場合には、原価によって売却することが前市長の在任中に決定された押切川工業団地内の土地売却についての方針であり、この方針は被告に対する事務引継によって承継されたが、被告はこれに反して本件契約(一八)を締結したと主張し、〔証拠略〕には、右主張事実に沿う記載、証言または供述がある。
しかし、他方で、〔証拠略〕の各事務引継書には右方針につき明確な記載がなく、証人唐橋及び同風間の各証言にも、事務引継書に保留地の処分価格についての明確な記載がないことを認める部分があること、更に、〔証拠略〕には、企業等に対する押切川工業団地の説明に際して、企業誘致条例に該当しない場合に、原価を割らない価格で工業用地を買い取ることになるとの説明はしなかったとの供述部分があり、〔証拠略〕には、純化対策目的での売却の際には、一坪当たり約金七万円で売却することについての検討を命じたとの供述部分はあるが、この検討を命じた内容が喜多方市の方針として確立したとまでの証言はなく、保留地について右の価格についての方針があったことは引継書に記載はなく、担当者に伝えただけであるとの供述部分があること、〔証拠略〕にも、何ら右方針の存在を裏付けるに足りる証拠がないことの記載があることが認められる。また、もし、仮に喜多方市において原告主張の方針が正式に決定されていたとするならば、本件土地区画整理事業において占める重要性に照らし、これが明確に記載された公文書が存在しないとか、事務引継書にも明確な記載がない、ということは考えがたいことでもある。以上を総合すれば、原告の右主張は直ちにこれを採用することができない。
3(一) そうすると、開運堂に対する別紙一記載の番号Rの土地についての売買契約は、前記の施行規程及び規則の定めるとおりの手続を履行して締結されたものと認められ、本件契約(一八)の締結には、前記施行規程及び前記規則違反は認められない。
(二) ところで、前認定事実によれば、番号Rの保留地は、本件土地区画整理事業土地評価基準による価額の評価を行ってみたものの、不適格建築物の移転という目的を達成し、併せて替費地の売却を促進するために、右評価による価額とは異なる価額を処分価格として売却されたものと認められる。
そして、原告は、右土地評価基準に違反する処分価格の決定が違法である旨主張する。
施行規程二一条は、土地区画整理法六五条三項を受けて、従前の宅地及び換地の価額について、市長がその位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮し、評価員の意見を聞いて定めると規定しているところ、土地評価基準とは、市長の右決定のための評価の実質的基準として定められているものであるが、右決定は最終的には個々の土地の価額ごとに評価員の意見を聞いてなされるものであって、土地評価基準による評価は右決定の基準となる評価にすぎないものと解される。そして、原告も、企業誘致条例の定める要件に適合する企業に対する売却に際しては、土地評価基準による評価額とは異なる価格による処分を行いうることを認めているように、土地評価基準とは、土地評価のための一応の基準に過ぎず、この評価を基礎としながら、さらに評価員の意見を聞いて決定した価格を下回らない範囲で、保留地を処分することができるものと解される。したがって、前示の、本件契約(一八)の締結に先立ち第一一回評価員会が開催され、その際承認された価格を下回らない価格をもって本件契約(一八)の代金額に決定した経緯によれば、本件契約(一八)の締結を土地評価基準による評価を下回る価格による売却であることそれ自体を理由として違法であるとする原告の右主張は失当である。
(三) また、原告は、右保留地の処分に地方自治法一三八条の二の忠実義務に対する違反がある旨主張する。
しかし、前示のとおり、前市長から被告に対する事務引継に際して、保留地の売却処分価格について、企業誘致条例に適合する企業に対しては一平方メートル当たり金一万二〇〇〇円とするが、いわゆる純化対策として不適格建築物を移転する企業には、原価をもって保留地の処分価格とするとの引継がなされたとか、不適格建築物の移転目的による保留地の売却処分に際しては、原価を処分価格とすることが喜多方市における方針であったと認めるに足りる証拠は存在しない。
しかも、前認定の、本件各契約締結当時においては、押切川工業団地内の土地の地価が工業用地としては高かったこと等から、買受申込みをなす者が少なく、売却が進んでいなかったこと、原告も、企業誘致条例に適合する企業に対する、原価よりも安価な価格での売却は許容されると認めていること、不適格建築物の移転により都市計画の実現を図り、併せて替費地の売却を促進することはそれ自体正当な行政目的に適うこと等の事情に照らせば、被告が、右保留地を、処分時の原価よりも低い価格で処分し、喜多方市の一般会計に対し後年度負担を予想させる行為をしたことそれ自体をもって、直ちに被告が喜多方市長として負担する忠実義務に違反したものとは認められない。
第四 結論
以上の次第で、原告の本件訴えのうち本件契約(一八)を除く各契約により喜多方市に生じた損害の賠償を求める部分は、適法な住民監査の前置がないことからいずれも不適法であるのでこれを却下することとし、その余の部分についての請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、地方自治法二四二条の二第六項、行政事件訴訟法四三条、二条、七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 林美穂 吉井隆平)